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「蘭香、すまなかった…」
忠治は自分よりも冷静である静邦の娘に呟いた。
静邦は自分の命を無しても、自分の娘たちの命を護ったのだ。
それをこの女童は受け入れたのだ。
自分よりも十六も下のこの女童は…。
本来ならば、自分よりも泣きたいのだろう。
自分の父親が死んだのにここまで冷静にいられるのだ。
この屋敷の主である、自分がこんなでいるのはどうなのだろうか。
静邦が成しとげたことで救われた命を見に行かなければならない。
「蘭香、行こう。
娘たちを見に行かなければならない」
忠治は立ち上がり、一言そう行って、静邦の部屋を出た。
それに蘭香は黙ってついて行った。
「殿!!静邦さまからお訊きになられたのですか??」
と部屋を出た瞬間、年かさの女房に問われた忠治は一言肯定の言葉だけを言ってその場を離れた。
蘭香はそれをみて、忠治が大丈夫なふりして、まだ静邦のことを引きずっていることを知った。
「青柳さん、父のことよろしくお願いします」
蘭香は年かさの女房にそれだけ言うと忠治を追いかけていった。
「蘭香、どういう意味なの!?」
そういう女房の声は蘭香の耳には入ってこなかった。
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