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それは二人子が産まれたときに遡る。
産声が同時に聞こえ、みな驚きを隠せなかったときだった。
誰かが声を張り上げて言った。
「二人子です、北の方様…」
桜波にはそのような声も聞こえなかった。
なぜなら、目の前にあるはずもない花びらが舞っているのだ。
この産屋の中に花びらが入ってくるような隙間はない。
産屋の中に木があることもだ。
その花びらが桜波にはとても麗しく見えた。
普通より紅い桜の花びらはふわりふわりと風に舞いながら、左にいた姫の手のひらに包み込まれるように落ちていった。
「なんなの、今の花びらは…」
桜波はそう呟くとあの桜の花びらがもう一度見たくなった。
いち早く桔梗がその言葉に反応した。
「北の方様、どうかしました??」
「桜の花びらが左の子の手のひらの中に…」
「え…。左の子ですか」
桔梗は不審に思いながら、左側に寝ころんでいる姫の手をどちらも見た。
しかし、花びらなどない。
その代わりに手のひらにあったものは…
紅い花びらの櫻の紋章のような痣だった。
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