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「それがあたくしが知っているお話ですわ。
お母様が亡くなる前に話して下さったの…」
舞子はそう話し終わりに添えると御簾の外を見た。
外では真面目な顔をした男が一人舞子の話を聞いていた。
舞子にとって、大切な話相手であるこの殿方は今を生きる者にとって知らぬ者はいないほどの方だ。
舞子の父が大納言になれたのも、この殿方の父である左大臣雅信の腹心だったことが一番の理由だろう。
そして、この方こそ、左大臣雅信の嫡男である桜原 雅成である。
舞子は父がこの雅成との婚姻を進めていることを知っていた。
そのために二人を引き合わせたのも…。
しかし、この殿方は他の人とは少々ばかり変わっているところがあった。
この時代、男は女のところに通うことが雅だとされていた。
たくさんの女と関わりがあることこそが最高の雅だ。
しかし、この殿方曰わく、そんなに女と遊んでいたって歌が上手くなるわけではなかろう。
そう言って女のところに通おうとしなかった。
それでも、それ以外のところは完璧なので、通われたいと思う女から、櫻月の君と呼ばれて慕われているのは舞子の情報内のことだ。
ちなみに何故その呼び名がついたかと言うと桜原の欠けない望月を次に継ぐものだからとか。
そういうのも舞子の情報内にはあった。
舞子など女は簡単に外には出れないので言伝で聞いたことが全ての情報だった。
政所のことや季節のこと、それを舞子に教えてくれるのはこの雅成という男の役目だった。
いつもは伝えるとその場を去り、またどこかへ行ってしまうが今日は違った。
「そなたに姉妹はおったりするか??」
突然、言われたので驚いたが、お母様が亡くなる前に話された秘密のお話を雅成にした。
すると、雅成は興味深そうに真剣にその話をきいてくださったのだった。
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