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「やはり、あの姫君は…」
舞子が話し終えると雅成はそう一言呟いた。
あの姫君とは??
舞子がそう問おうとすると雅成はまた口を開けた。
「雪解けの君は櫻鬼姫を知っているか??」
雪解けの君とは舞子の呼び名だ。
雪河原殿に住む、雪をも溶かしてしまいそうなほどの麗しさからきている。
そして、櫻鬼姫というのは…。
「知っているわ。
白河の櫻山に住む鬼のことでしょう??
お母様はそいつにお姉様は喰われただろうっておっしゃっていたわ。
他にも被害を受けている人がいるらしいし、見た瞬間喰われるっていうから、誰も退治に行かない鬼のことでしょう??」
舞子はそういうと少し悲しそうに下を向いた。
舞子の中でこの鬼の話は禁句だった。
自分の唯一の同母姉妹である姉を喰った鬼の話をしたい人など、どこにいるのだろうか。
「やはり、声も似ている。
あの櫻吹雪の君の方が少しばかり、麗しき凛とした声だったか??」
「櫻月の君、あなたは何がいいたいの??」
「私は櫻山で姫君を見た。
そなたに似た声を持つ姫君だ」
雅成はそういうと御簾の中が見えてるかのように舞子の目を捉えた。
「それはどういう…」
「しかし、その姫君は自分を鬼だと言い張るのだ。
見た目も声も麗しき櫻吹雪そのものなのにだ」
「では、あの桜鬼姫なのではないですか??」
「でも、私は生きている。
あの姫は人間だ…」
そう言うと雅成は遠い目をするかのように言い始めた。
「あれは十日ほど前のことだった…」
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