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雅成にはこの姫君を表す言葉が分からなかった。
可愛い。
美しい。
そのような言葉で言い表せないほど、姫君は麗しかった。
綺麗、その一言が出てこなかった。
このとき、女人に馴れている…良和ならば、洒落た言葉を言って姫君を惹きつけられるのだろう。
しかし、雅成にはそんな才能も余裕もなかった。
この姫君を纏う桜の花びらでさえも姫君の麗しさを引き出していた。
桜吹雪に包まれるこの姫君は幻ではないのだろうか。
本当にここは現実なのだろうか。
現実とはかけ離れた場所にいるような気持ちになった。
雅成はただただ、目の前にいる姫君を見るだけだった。
それしかできなかった。
姫君を見ないという選択肢はなかった。
少しでも長く、この姫君を眺めていたい。
そう思ってしまうのだ。
しかし、雅成は願いはすぐに叶わぬものとなった。
我に返ったかのように姫君は
「あっ」
と小さく叫ぶと屋敷の中へと逃げてしまった。
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