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雅成はこの姫君を追いかけたかった。
しかし、足が動かないのだ。
この姫君を捕まえてはいけないような気がしてしまう。
桜吹雪のような姫君だ。
雅成はそう思えた。
人の心を鷲掴みにしておきながら、すっと消え去る。
掴みさせてはくれやしない。
雅成はなぜか、姫君の顔が、後ろ姿が、声が忘れられそうになかった。
そして、もう一度、もう一度、姫君の声を、顔を見たいと思ってしまった。
このように思うことでさえ、雅成にはなかった。
だから、この気持ちがどんな感情かなど全く分からなかった。
この感情の意味を知りたくて仕方なかった。
もう一度、姫君の声を聞けば分かるだろうか。
分かりたい。知りたい。
この感情も、姫君のことも…。
そう思い、雅成は姫君が消えていった屋敷へと近づいた。
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