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紅子は気づいていた。
それは優しい嘘だと。
自分は父親に見捨てられ、ここに来たいらない子。
それから、外のことが分からないところで過ごした。
外に遊びに行こうともせず、静かに暮らした。
ただ、琴だけは手放せなかった。
お母様が紅子のために作り、もたせた紅櫻という琴を紅子は大切に扱っていた。
この琴を弾くときだけは人間でいられる気がした。
たとえ、己の身が鬼とされようとかまわない。
自分が鬼だといわれてもそう思えた。
なのに、
なぜ、あの桜を近くで見たいと思ってしまったのだろう。
そうだ。
お母様がこの紅色の桜が咲いた日に生まれた子と言うことで紅子と名付けてくれた。
という話を思い出して、近くで見たくなったのだ。
そしたらあの方にばったり遭遇してしまった。
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