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第一章
時は平安…ーー
春という薄紅色の花が咲く季節だった。
とある館では小さな命が誕生しそうになっていた。
雪が積もりやすい河原の近くにある館は雪河原殿と呼ばれ、その主は雪河原中納言と呼ばれていた。
本名を雪平忠治といい、正室に帝の御子を戴き、今その子を授かろうとしていた。
雪平氏といえば、最近勢力を伸ばしている一族のひとつで、忠治は左大臣の櫻原雅信の腹心でもあった。
左大臣家にも、待望の嫡男が誕生したばかりだ。
もし、この度生まれる子が女子ならば、左大臣家との結びつきを強めることができるかもしれない。
忠治は喜びに溢れていた。
男子だったとしても、また左大臣になるであろう雅信の嫡男の腹心となってくれるだろう。
そうしたら、雪平家はもっと栄える。
忠治はそう信じて疑わなかった。
「殿、生まれそうでございます」
忠治が庭の桜の蕾を見ているところに女童でこの度生まれる子の乳兄弟になる者の姉である蘭香(らんか)が来て言った。
もう少しでか…。
忠治は一度、蘭香を見た目をまた、庭へと戻す。
そのときだった。
咲いていなかった桜が突然、咲き始めたのと一人分にしては大きい泣き声がしたのは…。
そして、その桜が普通の桜よりも紅い花弁を持っていたのに気づいたのもそのときだった。
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