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「殿、様子を見てきます!!」
蘭香は焦った様子で産屋の方へ向かっていった。
焦るのも当たり前だ。
奇妙な櫻とともに産まれた子が不吉なものをもたぬはずがない。
もしかしたら、物の怪が取り憑いている証拠かもしれぬ。
忠治は恐ろしい思いで櫻を見た。
紅い花弁は儚さを感じず、存在感があった。
忠治はこの花を見ているうちにこの紅色がとても麗しく見えてきた。
それは物の怪に取り憑かれるような感覚もあった。
しかし、その思いも一瞬で消え、忠治は自分自身がとても、恐ろしく思えた。
そして、間もなくして、蘭香が戻ってきた。
「殿、大変です!!
御子はお二方とも麗しき子でございます!!」
忠治は一瞬、喜ぼうとしたが、ふと考える。
お二方とも…
しかし、忠治には正室しかいない。
愛人でさえもいない。
なのに、二人…
気づいたときには、忠治は叫んでいた。
「静邦(しずくに)を呼べ!!」
自分の乳兄弟で占いが得意な佐田 静邦だったら、この二人子で産まれてしまった姫の運命を占えるだろう。
忠治はそう思い、叫び散らした。
しかし、蘭香が忠治を止めるように叫んだ。
「静邦様はもう、お二方の運命を占っております!!」
「で、なんと出たんだ!!」
忠治はこれ以上、集中できないと思えるほどの集中力を自分の耳に使った。
しかし、蘭香からの言葉はあっけないものだった。
「静邦様が殿を連れてきてほしいとおっしゃっていました」
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