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そこは消える様子が一切ない、黒い空間。けど、しっかりとそこを見てるはずなのに兄ちゃんはきょとんとした表情でもう一度、壁に?と尋ねてくる。思わず「え、」と声を出してしまいあたしもきょとんとした。
普通驚くか兄ちゃんの過保護な性格からして、ベッドから引っ張り出されてあんなに近くにいて大丈夫なのか!?と必死に心配してくるかと身構えてたのに。ただただ首を傾げて不思議そうにあたしを見てるだけだった。
「く、黒いの、ない……?」
「黒いの……?
はっ!まさか奴か!!黒光りしてカサカサ動く、奴が現れたから怖いんだな椿!!兄ちゃんが探して退治してやる!」
「違う!まずあたしそれ怖くないし自分で退治出来るから」
「女子としてそれはどうかと思うぞ椿!?
それに、違うなら本当に何なんだ?」
「………えーっと…」
見えて、ないんだろうか。こんなにはっきりとあるのに。でも兄ちゃんは嘘を付くような人じゃない。それに、やっぱり見えてるなら黒光りする奴のことを出すなんてあり得ない。
「ご、ごめん。鳥か何かの影だったみたい!寝惚けたから!」
「………そっか。ならいいな!じゃあ兄ちゃんは部活あるからもう準備して行くな」
「うん、有紀のお兄さんによろしく!」
頭を軽く撫でて、部屋を出ていった。多分、誤魔化したのはばれてるだろうなぁ。兄ちゃん、心配げな表情が残ったままだったし。きっとあたしが言いにくいって悟ったんだ。
でも……これは流石に、言った方が心配されるだろうしなぁ。
じっ、と横の壁に出来た真っ黒い空間……と言うより、穴を見つめる。大きさと言えば半径60センチぐらいの丸を少し縦長にした感じだった。
布団から出て、体をそれの目の前に持って行く。さっきまで兄ちゃんと騒いでいたからか部屋が妙に静かに感じて、自分の体重でぎしっとスプリングが軋む音が少し恐かった。
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