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「零、正気か?」
信じられないとばかりに、晃は藤堂を見つめ返した。
「俺は正気だ。榊だけが頼りなんだ。大切な奴を助けたい、失いたくないんだ。頼む」
藤堂の迷いのない声が、晃の胸を鋭く突く。
「零にそこまで言われちゃ、協力しないといけないね」
「ありがとう、榊。恩にきる」
「礼は、龍海亮二を無事に奪い返してから言ってくれよ」
「ああ、そうだな」
「……で、どうやって亮二を奪い返すか…。なぁ、亮二ってまさか…巷で評判だった高級色子か?」
「そうだ。よく知っているな」
「当たり前だろ!?亮二って言ったら、官僚や資産家でもなかなか相手をしてもらえないくらいの人気で、指名も取れないんだぜ?しかも、儚く可憐ながらも凛々しさがあって、男を惑わす妖艶さがあるんだ。俺も一度、相手をしてもらいたかったなぁ」
「榊……」
藤堂は不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
「わっ!ウソウソ!零の大切な奴に手を出そうなんて思ってないよ」
「どうだかな……」
藤堂は腕を組みながら、怪訝そうな視線を晃に向ける。
「ほら、亮二を奪い返す方法を考えようぜ」
「ああ」
「俺の方で探りを入れてみるから、情報が入り次第、零に連絡を入れる。それまでは屋敷で待機しててくれ」
「解った…。よろしく頼む」
すっかり渋くなってしまった紅茶を飲んだ後、藤堂は晃の屋敷を後にした。
窓越しから藤堂を見送りながら、晃がポツリと呟く。
「冴島由紀か……。とんでもない奴を敵に回したもんだな……」
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