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────…仮想19世紀末・江戸・遊廓
───…暁八ツ
大門が閉まり、遊女・男娼たちが眠りに就いた頃。
男娼館「神蘭屋」から逃げ出した、男娼の龍海亮二は角町の通りを不寝番から逃げるように駆けていた。
四月の初めの季節ではあるが、朝晩はぐんと気温が下がり冷え込む。
夜の凍てついた空気が、不寝番から逃げる亮二の肌を刺す。
『……ハァ……ハァ……』
ポツン、ポツン、と等間隔に街灯が静寂に包まれた通りを、闇の侵食から守っていた。
亮二の駆ける足音、息遣いが昼間の十倍は大袈裟に響く。
その亮二の後を追うように、複数の人の声と足音が聞こえてくる。
亮二は物陰に隠れると、息を潜め不寝番の様子を伺った。
「どこ行きやがった!?」
「一刻も早く見つけ出せ!見つからなければ…俺たちの命が……」
神蘭屋の高級色子で、由紀のお気に入りの亮二を逃がしたのだ。
その亮二を見つけ出すことが出来なかったら、不寝番らの命はない。
そのことを考えると、不寝番らの背中は汗がびっしょりで、心臓は普段の倍くらい早く動いていた。
「どんなことをしてでも見つけ出せ!いいな!」
「ちっ、うっせぇな!言われなくても解ってる。命がかかってんだからな」
不寝番らの姿がその場から居なくなったことを確認してから、亮二は再び走り出した。
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