冤罪のにおい

Ⅰ：事件の足音

「いやぁ、あのお客さん。相当、慌てていましたね」

この店でアルバイトとして働いている女性店員の松村凛子(まつむら りんこ)は、小さな声でそう呟く。

「おいおい、そういう事は言っちゃ駄目だって。他のお客様にも聞こえたら……」

松村を注意したのは先ほど、男を洗面所に案内した店員の伊藤明人(いとう あきひと)。
同じく、アルバイトだ。

２人がアルバイトとして働いている、このコンビニの名は「フレンドリーズ」という。

あまり有名でなく、どちらかと言うと地域密着型のタイプのコンビニチェーンではあったが、都会でなく郊外だったこの町においては競合するコンビニ店がそこまで多くはなかった為、経営はとりあえずはなんとか成り立っていた。