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一軒家の戸を二回軽く叩き、家主が出てくるのを待つ。
十秒と経たずに奥から足音が聞こえ、すぐに戸が開いて老婆が顔だけを覗かせた。
老婆はいかにも不機嫌そうな顔をしながら青年を睨み口を開いた。
「何か用かい。新聞の勧誘ならお断りだよ。」
「い、いえ、本日から部屋を貸していただく事になっている予定の者なのですが……」
老婆に気圧されたのか、それとも根っからの性格なのか、青年は弱々しく怯えたように答えた。
老婆は一瞬考えたような表情をし、すぐさま何かを捻り出したかのような、スッキリした表情になった。
「あぁ、そういえば今日だったね。あんた、名前はなんていったっけ?」
老婆の表情からは既に先ほどのような負の感情は感じ取れない。
青年もそれを感じたのか、自然と温和な表情となり答えた。
「はい、久能 真です。」
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