エピローグ

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誰かに名を呼ばれた気がして、男は振り返った。 沈みゆく太陽に紅く染められた海岸線。 足下に波が打ち寄せる砂浜に、人影はない。 わずかに首を傾げた男の視界が、ふいに歪んだ。  「……っ」 目眩と共に眼前の風景が、その瞳に映り込んだ幻影と重なった。 夕日に染まる浜辺、…寄せては返す波音と、砂を踏む足音だけが響いていた。 あれは、…いつの事だろうか。 二人、夕焼け色の海岸線を歩いた。 それは穏やかで、けれど…切なくて。 何物にも変えられない、…大切な時間だった。 彼は足を止めて、夕日にその瞳を細めた。 紅く染められたその横顔が、余りにも綺麗で。 俺は…。  「レオン」 名を呼ばれて、男は我に返った。 振り返ると、夕日に染まる長い金の髪を揺らす彼女が立っていた。  「…クリスタ」 その名を口にしたレオンは、再び首を傾げた。 俺は、…今何を考えていた? 幻影は遠く消え去っていた。  「どうかした?」 そのエメラルドの瞳でレオンを見上げ、クリスタが微笑った。  「何でもない」 首を振って、レオンは微笑み返した。  「行きましょう?」 クリスタがその細く華奢な手を差し伸べた。  「ああ」 頷いて、レオンは彼女の手を取った。 寄り添って歩き出す二人の足跡を、打ち寄せた波が静かにさらって行った。 2終…3へ続く
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