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夕方から落ち始めた雨はまだ降り続いていた。
13分署三階廊下奥の休憩スペースに佇むアガットは、腕時計を見やって息をついた。
時刻はもうすぐ午後七時になろうとしている。
廊下は薄暗く、アガット以外の人影はない休憩スペースも自販機の青白い灯りだけが漏れていた。
アガットは雨にぼやける夜景に目を細めて、冷たい窓ガラスに額を押し当てた。
「………」
この13分署の特捜課に戻って来てからというもの、レオンの傍にいる事が落ち着かない。
まともに、その顔すら見れない。
不可抗力とはいえ、やはり戻って来るべきじゃなかった…?
いや。
アガットは目を閉じて、自嘲するように小さく笑った。
不可抗力…?…違う。
自分に下された処分は、本部からの異動のみだった。
この13分署へ戻る事を選んだのは、俺だ。
戻って来い…アガット。
あの日、病室でレオンが言った言葉が胸によみがえる。
抗えなかった。
心は、驚く程に正直だ。
好きだ…たった一言。
ずっと求めながら、求めてはいけないと思っていたその言葉に。
魂ごと持っていかれた。
「どうして、…俺を避けるんだ?」
嗚咽を漏らしかけた時、静かな声が耳に届いてアガットははっと顔を上げた。
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