122人が本棚に入れています
本棚に追加
三階建てのアーケード状の巨大なショッピングセンターは、多くの人々で賑わっていた。
吹き抜けの開放的なエントランスホールに設けられた、オープンカフェのテーブルに青年が一人座っていた。
明るい色合いのパーカーにジーンズを履き、伸びた金髪を後ろで束ねていた。
青年は涼しげな薄青の瞳を細め、鼻歌混じりに行き交う人々を眺めていた。
彼の傍らの椅子には、大きめの紙袋が置かれていた。
グラスに入ったオレンジジュースをストローですすった時、青年のテーブルに一人の少女が近づいて来た。
フリルのリボンが付いたピンクのワンピースを着た、可愛らしい少女だった。
青年はわずかに首を傾げると、パーカーのポケットからキャンディを取り出した。
「これ、あげる」
微笑んだ彼がそれを差し出すと、少女もにっこりと笑った。
「ありがとう!」
キャンディを手に駆けてゆく少女の小さな背中に、青年は緩く手を振った。
青年はおもむろに立ち上がると支払いを済ませ、再び鼻歌を口ずさみながら歩き出した。
「………」
座っていたテーブルに置いたままの紙袋を見やって、彼は薄く微笑った。
ホールからショッピングセンターの外へ出た青年は、パーカーのポケットに手を突っ込んだ。
ゆっくりとセンターから離れた彼は、首だけ巡らせ後ろを振り返った。
「…バイバーイ」
呟いて、青年はくすりと笑った。
ドガアアアンッ…!
直後、青年の背後で凄まじい爆発が巻き起こった。
ショッピングセンターのビル壁が崩れ、無数のコンクリートの塊が通りへと降り注ぐ。
「うわあああっ!」
「きゃあああ…!」
轟音と土埃が舞い、人々の悲鳴が乱れ飛ぶ中、青年は悠然と歩いてゆく。
「…ハンナ!…ハンナっ…!」
瓦礫が散乱し血まみれの死体が点々と横たわるホールに、額や腕から血を流し、よろめきながら娘の名を呼ぶ母親の泣き叫ぶ声が響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!