耳を塞いで、なんにも聞きたくないの。

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「ただいま」 家に帰っても、返事はなかった。 案の定ソファで寝てしまっている兄を見つめ、ことりは息を飲む。 起こそうと思って正面から抱きつく形になってしまったが、これも仕方のないことだろう。 上半身を起こせば、力の入っていない首が前へ後ろへグラグラと揺れる。 危なかろうと右手で頬を支えれば、手の平に擦り寄るような仕草に起きているのではと心臓が跳ねる。 長い睫毛が震え、夕日に当たった前髪が白い頬に影を作っている。 薄い桃色の唇からはすうすうと規則正しい吐息がこぼれ落ち、ことりの鼻を掠めた。
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