恋。来い?鯉?…いや、ちゃうて。

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「え?」 思わず、弥吉さんを見つめる。 俺の視線を受けて、その人の良さそうな顔がにこっと笑みを浮かべる。 「さっき、なんや、えらい重病人が来てはりましたんや。」 「………え、駄目じゃないですか。」 つい突っ込むと、弥吉さんは面倒臭そうに手を振った。 「ええんや、ええんや。あんなん、ただの貧血や。緑ィ色の雑草かなんか食べはったら、すぐにようなりますよって。」 弥吉さんの云い草が面白くて、くすくす笑っていると、不意に弥吉さんの顔が真剣味を帯びた。 「沖田はん。」 「はい。」 「あんたはんが今回血ィを吐かはったんは、労咳やのうて、心労によるもんや。」 唐突な診断に、一瞬、目を丸くする。 「…………心労?」 思わず問い返すと、こっくり頷かれた。 「そうどす。………あんな、リュウはんのことで、何悩んでんのかわてにはさっぱり見当が付きませんけどな。うじうじ悩んどんのは男らしゅうないんとちゃいますか。」 ーーーーーーーー余談だが、この弥吉医師には、俺は、会津藩士、沖田総司と名乗っている。流さんは始めから、訳あって沖田総司の弟の沖田流之丞と名乗っている、葉月流だと明かしている。それに、流さんの場合、性別も始めから弥吉さんには明かしていた。医師に身体を誤魔化すことほど愚かなことはないと彼女は云う。 まあ、余談はここらにしておいて。 俺は、弥吉さんのその言葉に、迷いが吹き飛んだ気がした。
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