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「…………総司さん?」
背骨が軋む程の抱擁を必死で受け止めながら、あたしは彼の倉卒さが気に掛かって、呟くように問うた。
「俺と、貴女は。」
総司さんが、震えた声でそう云った。まるで、一人路頭に迷ってしまった幼子のような儚さで。
「……………京中の誰もが厭う壬生狼の筆頭人斬りと、本来なら此処に居るはずのない未来に生きる人だ。それが、……………純粋に想い合って、恋仲になることなど、許されないだろう?」
……………何も、云えなかった。
あたしは、総司さんが何処か遠くに行ってしまうことばかりに恐怖していたけど、あたし本人が、平成に突然帰ってしまうことだってあり得るのだ。
始めて気付いたその事実に、ただ愕然とした。
「……………………偶然だったと。全てが偶然だったと思えば、この苦しみから逃れられるのか?貴女が此処(幕末)に来たことも、丁度巡察中だった俺が一等最初に貴女を見つけたことも、俺が貴女に恋したことも、貴女が俺を好いてくれているということもっ。」
「そんなこと、ない。」
獣の咆哮のように叫んだ総司さんに、あたしはゆるりと彼の背に手を這わせながら、呟いた。
「そんなことない。そう。……………全ては必然だったの。」
もう一度、確かめるように云った。
云いつつ、抱かれたまま、体勢を立て直して膝立ちになった。
そして、座ったままの総司さんと目線を合わせて、もう一度口を開く。
「必然、だったのよ。偶然なんかじゃない。」
至近距離で、総司の瞳が瞬く。
「だって、あたし、云ったと思うけど、護ならともかく、まともに男の人を好きになったことがないんだよ?それが、総司さんを好きになれたって凄くない?」
説明すると、総司さんが呆れたような、いや、呆気に取られたような顔をした。
「え、そこ?」
「そこしかないでしょ。」
大真面目で答えると、瞬間、あたしと総司さんは無表情で見つめあうことになる。
そして、二人同時にぷっと吹き出した。
「ごめん。」
「いや、いいけど。…………あんまり可愛いこと云ってくれんな。」
「なっ!!!??」
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