先ず、あたしは叶わぬ野望を抱く。

2/14
前へ
/492ページ
次へ
まるで、湖の底を漂うような浮遊感。 心地の良い、穏やかな闇。 ーーー此処は、どこ? 唐突に、頭に鈍痛を認めた。 続いて、首に何かが巻き付くような息苦しさ。 「起きろって、云ってんだろぉぉぉぉぉぉぉぉ」 「う…る、せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」 少女、葉月 流(はづき ながれ)は、くわっと目を開けた。 深い眠りから漸く目覚めて、流が一等始めにみたものは、恐らく、己の腹の上に騎手よろしく跨り、小型の鉄製の目覚まし時計を片手で振り上げる少年の姿であろう。 「……なぁに、しとんじゃぁぁぁぁ!!!この、糞餓鬼がァ!!!!あァ!?」 「お早う、姉貴。死んで。」 凄んだ流を尻目に、爽やか過ぎる笑顔で暴言を吐いた美少年。彼は、流の一つ年下の弟、葉月 護(まもり)である。 「死ぬかァ、ぼけェ。」 流は、手際良く護の手から目覚まし時計を叩き落とし、上体を起こそうとした。 「何で。起きようとしてる訳?」 しかしそれは叶わず、流は護に押し倒される。 「護、あんたねぇ。あたしら、取り敢えず姉弟だよ。この体勢が絵面的に悪いってこと、あんたも、16になるんだから理解してよね。」 流は、押し倒されたまま、畳に置いてあった腕時計を取り、素早く付けた。 流の場面適応能力は素晴らしい以外の何者でもない。こんな状況でも、取り乱すことなく身仕度を整えることが可能なのだ。 「その言葉、そのまま返す。」 しかし、護の言葉に流は固まらざるを得なかった。 「姉貴だって、17だろ。俺が、この体勢で何しようとしてるかなんて、分かるんじゃねーの。」 「はい?」 英語で云うなれば、why? だ。 どうして?なんで?は?意味わかんねーよ。 マジで姉ちゃん寝起きなんだよ、勘弁してくれ。 しかも、これ、1ページ目だろ?展開速過ぎやしねぇかい!?
/492ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1221人が本棚に入れています
本棚に追加