先ず、あたしは叶わぬ野望を抱く。

5/14
前へ
/492ページ
次へ
流は友達と、とある信号機の前で待ち合わせをしていた。 彼女の名は、芦部 清羅(あしべ せいら)。流の通う高校とその周辺校にその名を轟かせる絶世の美女だ。 その容姿は、可憐とも、妖艶とも形容し難く、ただただ、美しいの一言に尽きる、と云った感じだ。 「ラーちゃん!オハヨ!」 そう叫びながら清羅に突進する流もなかなかの美しさなのだが、なんせ、その言動が流の”美しさ“と云うものになるもの全てを霞ませている。 「お早う。流(りゅう)。」 この二人は互いを愛称で呼び合っている。それは当たり前だが、その愛称、と云うのがまた珍妙だ。 流(ながれ)は、流(りゅう)。 清羅は、何処からきたのか、ラーちゃん、と呼ばれている。 端から聞けば、別人を呼んでいるようにしか聞こえないだろう。 「今日はまた遅かったな。」 この清羅と云う少女は、容姿が人形のように整っているのに加えて、淡白な性格をしている。 「だってね、護ったらあたしの寝起きを襲って来たのよ!?信じられる?」 ぎゃーぎゃー喚く流とは正反対である。 「しかし、流は護くんが好きなのだろう。」 「そりゃあ、家族だもの。」 小さく云って、流は微笑む。 こういうとき、流ははっとするほど綺麗な表情をする。清羅でさえも目を奪われるものがある。 「けれど、遅れた理由はそれだけではあるまい。」 清羅は悪戯っぽく笑って云った。 「まあね。」 そして、ニヤリと笑って流も返す。 清羅の”遅れる“、は大抵、護に何かされたか、寝坊だ。それを毎日、怒りもせずに待っている清羅は賞賛に値するだろう。 「今日は何の夢を見た?」 そう。流の寝坊は全て夢によって引き起こされるもの。 そして、その夢は毎回同じ。 「清羅も、よくそんなに飽きもせず聞くねぇ。勿論そこは…」 「「新選組。」」 二人分の声が完璧に合わさった。
/492ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1221人が本棚に入れています
本棚に追加