先ず、あたしは叶わぬ野望を抱く。

7/14
前へ
/492ページ
次へ
「しかし、まあ、幕末には私も感謝すべきことはあるしな。」 しょげ返った流を横目に見ながら、清羅はしみじみと云った。 「ん?感謝?」 流は、思いも寄らぬ言葉が清羅の口から出てきたので、ちょっと小首を傾げながら、清羅に問うた。 「今こうして、私たちがこんな風に並んで歩いているのは、流の大好きな新選組のお陰だろう。」 清羅は前だけ見て云う。 「まあ、確かに。」 流も、清羅の目を見ずに、少し俯いて云った。 「気にしないで。私は、ただ、流とこうしていられるだけで、幸せだから。」 清羅は、やっぱり前だけを見たまま、それでも少し微笑んでいた。 流にはそれが胸に苦しくて、思わず清羅に抱き付いた。 清羅には、複雑な家庭事情がある。清羅の母親は、題して、恋多き熟女、だ。その母親のまあ、そのイロイロな理由で結婚、離婚を繰り返している。 清羅は、日咲 清羅(ひがさき せいら)として誕生し、8歳の時、両親の離婚により母方の姓の土方姓になったため、一時期は土方 清羅(ひじかた せいら)と名乗っていた。そして15歳になった時、清羅の母親が再婚。現在の芦部 清羅となった。 流と清羅が出会ったのは、13歳、中学1年の時。 その頃には既に脳味噌がまるまる幕末へワープしていた流にとって、土方姓の美貌の少女など、美味しい以外の何者でもなかった。(ネタとして美味しいのであって、決して流は清羅のことを捕食してはいない。) そして、流は抜け目なく清羅のその姓に喰いついて、あれやこれやと聞いたのである。確かに、清羅の母親は、かの有名な新選組副長、土方歳三の遠い遠い縁者であると云う。 しかし、まあ、実の父親と母親が離婚してなった姓なのだから、当然、当時の清羅が土方姓に快い印象を持っているはずもなく。 毎回、この話になるたびに、流はいっそ死んでしまいたくなるくらいの罪悪感を感じる。 この話を護にしたら、「じゃあ死ねよ。世のため人のために。」と云われたことは、余りにも胸糞悪いので、この際忘れておくことにしよう。
/492ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1221人が本棚に入れています
本棚に追加