補佐官の休暇

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「あの特別室。お前以来使う子供がいなくてな。どうだ?久しぶりに、使ってみるか?」 にこりと、さっきの怒声が聞き間違いかと思うほどの笑顔で学長が言う。 言われたルースはといえば、彼にしては珍しいほど感情を露わに顔を歪めていた。 「まだあんのか、拷問部屋…。」 「人聞きの悪いことを言うな。だいたい、頼んできたのはお前だろうが。」 「だからって、10歳の子供を1週間監禁するのはどうなんだ。」 「おかげで火属性の魔法を安定して使えるようになっただろう?」 「強制的にな。」 「お前の望む環境を与えてやったはずだが?」 「誰も一週間閉じ込めろとは言ってねぇ。」 「1か月も籠ればさすがのお前も、もう少し他人の温もりや有難味を実感できるんじゃないか?」 誰が1か月も閉じ込められてやるか…と内心で思いながらも、こんなことを言い合っている場合でもない。 ルースは諦めたようにため息をこぼす。 「最終的な目的が地下にいるヤツだとするなら、ここも狙われる。次の満月までに終わるのか?」 あからさまに話題を変えるが、学長も続ける気はなかったらしい。 何も無かったように話を合わせる。 「ふむ。間に合わせるようにしよう。」 「それと…。」 言葉を止めて、ルースは迷って顔をしかめた。 「万が一暴走したら、止めてやってくれ。」 「…お前が、か?」 「いや、俺はいい。必要ならアンジェラ辺りが刺してでも止めるだろうし。」 「では…。」 「どうしたって、不安定なんだ。俺にはどうしようもないし…。敵は、そういうとこを突くのが得意だろうから。」 察した学長がその名を口にするのを遮るように、ルースは言った。 伏し目がちなその表情は、いつになく弱気で、あまりにもらしくない。
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