補佐官の休暇

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ジャスティンの知るルース=アストレイは、確かに水と風の能力に長けていた。 魔道士学校へ入学した当初から、水を自在に操り具現化も難なくこなしていたし、少し力を籠めれば小さな竜巻くらいは簡単に操った。 今のルースが、風を操ることは何ら不思議はない。 ただ、違う…とジャスティンには思えたのだ。 以前の彼の魔法とは違う。 風の障壁で人をはじき、氷の刃で身を守る。 決してその領域には踏み込ませない。 何もかもを拒絶する、強いけれどどこか危うい少年。 それが、ルース=アストレイではなかったか? そうだ、彼は変わった。 魔力保有者の能力それぞれに特徴があるように、個々によって纏う空気が違うのを魔道士達は感知できることがある。 感知能力の一種であり感じ方は個人差があるが、ルースほどの魔道士であれば、力の放出によって相手を威圧することも可能だろう。 そう、威圧感だ。 以前の彼は、誰に対しても警戒心を解かなかった。 だが今は…。 口の悪さも態度も相変わらずだが、それでも。 纏う空気が和らいだ。 彼の使う風が変わった。 「学長。」 「何だね?」 「…シルファ=リードとは、どんな子でしたか?」 「優しく、素直な子だよ。」 「風属性でしたよね?競技会では、レオン=マキシアにも競り勝ったと聞いています。」 「ああ。あれはなかなか面白い試合だった。」 楽しげに目を細めて話す学長とは反して、ジャスティンは真剣な顔つきで尋ねる。 「ともに過ごすことで、互いの魔力が影響しあうことは…、あるものですか?」 その問いに学長はニコリと微笑む。 「大いに。」 あの、ルースを…? 変えたのか?たった一人の女の子が。 …変わった、のか。 たった一人の女の子のために…。
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