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ノワールはその小さな背を数秒眺め、ふっと鼻で笑うと、その横に追いつく。
「デート中断されたからか?」
「違うってばっ。」
ニヤニヤとからかってくるノワールに、ますますムキになってしまう自分がさらに情けない。
「なんだよ?アイツになんか言われたか?」
ノワールの声音が、ガラにも無く柔らかくなる。
「…足手まといだって…。」
小さな声で呟いて、シルファはこみ上げる痛みをぐっと呑みこんだ。
ノワールは「そういうことか」と納得して、ふぅっとため息をこぼす。
「そりゃ、私、戦闘術は苦手だけど…っ。でも、何にもできないわけじゃないわっ。」
「そうだな。」
「私だって…、ちゃんとルース様の役に立ちたいの。お世話になってるだけじゃなくて、ちゃんと…っ。」
あの、火事の夜。
何もできずに、「銀の魔道士」という圧倒的な存在に、すがるしかできなかった自分は、ただ泣くことしかできない子供だった。
あの頃の自分とは違う。
魔力があると知った。
学校へ通い、その使い方を覚えた。
ルースの助けになれるほどの力など無いことはわかっている。
それでも、ただ、見ているだけではいたくない。
「アイツは、そういう言い方しかできねんだろ。」
「…え?」
「この世に、完璧な人間はいねぇからな。」
「…。」
その意味を量りかねて、シルファは訝しげに首をかしげる。
そんなシルファを見て、ふっとノワールは笑うと、ぐしゃぐしゃとシルファの髪を掻きまわした。
「お前は、昼間中動きまわってんだ。帰って寝てろってことだよ。」
その言葉に、納得はできなかった。
けれど、シルファは黙って、それに従うことにした。
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