魔道士の日常

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都会の喧騒の代わりに、鳥のさえずりや木々の擦れ合うざわめきが耳に心地良い、深緑色の風景。 訪れた者を不思議と安堵させる、豊かな自然に囲まれたその土地も、時として凶暴な一面を顕わにする。 3日間降り続いた豪雨は、普段は爽やかなせせらぎを聴かせる美しい川を、今はまるで暴れ狂う龍のごとく変貌させていた。 「あの、大丈夫でしょうか?」 川沿いの村の長である老人が、不安げに魔道士の様子を窺う。 「はい、頑張ります。えっと、少し離れててもらえますか?」 にっこりと笑って、彼女は増水した川の方を向く。 雨で川が氾濫し、街へ出るための唯一の橋が流された。 大雨の影響を視察に訪れたギルドの魔道士に橋の修復を頼んだが、最近頻発しているという魔獣出現の騒ぎで、多くの魔道士が出払っており、担当者が来れるのはいつになるかわからないとの返答だった。
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