真昼の月

9/9
前へ
/9ページ
次へ
「ただいま。あの娘はおとなしくしてた?」 玄関から姉の声が聞こえる 「もちろん、良い子にしてたわよ」   赤く…… 「って、あんた達どこに居るのよ?」 居間から姉の声がする      紅く…… 「すぐにそっちに行くわ」 赤く染まった右手と、脂で光る包丁に目を落とすと、更に心が穏やかになるのが解る 「ねぇ、姉さん?私やっぱり結婚式には出席しようと思うの」   緋く…… 「何言ってるのよ。それよりも喉渇いたわ。何か無いの?」 姉はソファに寝転がって私の方を見ない 「何か変な臭いしな……」   赤く紅く緋く…… 「姉さん。私、今日はとっても気分が良いの。こんなに穏やかですっきりとした気分は、あの日以来初めてかもしれない。結婚式にもきっと穏やかな気分で祝福できると思うわ」 姉の瞳は驚いたように見開かれたまま、何も映そうとはしない 赤く染まった姉を見下ろし、その穏やかな顔に満足する 「真っ赤なドレスを買いに行こうと思うの。それに、もっと良く切れるナイフも必要ね。ねぇ、知ってた?赤って心躍る色では無くて、穏やかにする色なのよ?」 見上げた窓からは真っ赤な月が見える 「世界中が赤で満ちれば、みんな穏やかに過ごせるようになると思うわ」  赤く…… 「この部屋も、さっきよりもずいぶん美しくなったと思わない?姉さんもそう思うでしょ?」   緋く……    紅く……
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加