真昼の月

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 「このランプが   気になるかね?」  ランプはまるで  月明かりのように  淡い光を放っている  「これは私の   お気に入りでね。   このランプシェードは   人の肌で   出来ているのだよ。   人の死を通した光は   美しいとは思わんかね?」  「それはあなたが   作ったの?残酷ね」  月の光を美しいと思うなら  人の死を通した光も  美しいと思わない  訳が無いと思った  「残念ながらこれは   私にはこれほど美しく   人の皮をなめす技術が   無くてね。   これは、第二次大戦中に   ユダヤ人の収容所で   作られたモノだよ。   ほら、触ってみるといい」  そっと触れた  ランプシェードは  ほんのりとした暖かさと  人肌特有の柔らかさを感じた  「人肌に触れるのは   安らぐものだろう」  「ホントね」  人に触れるのも  触れられる事も  久しく無かった事に  今さら気付いた  「人は誰でも   驚くほど   残酷になれる   生き物なのだよ」  自分の為、他人の為  「ほんの少し   正義と信念を持って   躊躇いを捨てればいい」  男は優しく笑う  私は闇に浮かぶ  地球を見上げた  肉眼では見えなくても  私の瞳には私の姿が  入っているはずだ
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