真昼の月

8/9
前へ
/9ページ
次へ
姪は母親が出掛けたのにも気付かず、夢中でテレビを観ているので、私はタバコを吸おうとベランダに出た 雲1つ見えない空に、淡く薄い月が浮かんでいる あの月に私が居るのなら、私の瞳の中には私が映っている どちらが夢なのか そんな事は些末な事なのかもしれない   「私の夢は    この月を血で    真っ赤に染める    事なんだよ」 耳の奥で男の声が聞こえる   「月ならば    血の赤は変色せず    いつまでも    鮮やかな赤で    いてくれるからね」 私は地上から月を見上げ、真っ赤に染まった月と、その赤い月の光に照らされた夜を夢想する それはなんて…… 「ママ~!」 さっきまでテレビに夢中だったのに、母親が居ない事に気が付いたのか、姪が泣き出した   私はテーブルの上に   置かれている   赤いワインを一息に   飲み干した 「ママはお買い物に行ってるわよ。すぐ帰ってくるから、テレビ観てなさい」 タバコを消してベランダから部屋に入る 振り返って見た月はまだ白く、きっと誰の目にも止まらないんだろうと思った あの荒涼とした白い地面が真っ赤に染まる それは、きっと誰の目にも鮮やかで なんて美しい光景だろう 変色しない赤。死者に酸素は必要ないから赤は変色しない方が良い そして死が永遠と同義語ならば、それはなんて…… なんて穏やかで心安らぐ光景なんだろう 「ママはもうすぐ帰ってくるわよ。それまで私と遊びましょう」 月で飲んだ黄泉の供物が、ドロリとした血になって、私の体内から零れ落ちる 私は口が三日月のように歪むのを止められない  赤く、紅く、緋く…… 白い月を背にベランダのドアを閉めた
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加