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「馬鹿はお前だ、キュイラス! やりもしねぇで、ウダウダと胸糞悪いお綺麗な言葉を並べるな!」
テメェはやりもしないで、弱音吐くような野郎だったか!?
腑抜けてんじゃねぇよ。
限りがある下を見るな、可能性がある上を見ろ。
上を見ない限り、叶えたいモノなんざ叶うワケねぇだろ!
そう怒鳴るように力説した彼の言葉は、汚れきった男の心を荒削りだが綺麗に洗い流した。
「お前は…全く…」
目を傷めない陰りがある下よりも、太陽の光に負けないで、上を見続けていたら…。
「…壊せ」
「あ?」
「壊してくれ、アレウス。 あのピアノを」
それは、男が子供の頃から使っているグランドピアノ。
大切なモノだが、あのピアノは…上流社会に縛られて来た男の鎖、鳥かごのような物でもあった。
「いいのか? ガキの頃から使ってるピアノだろ?」
「…いいさ。 あれが壊れたら、この場所から出て行ける気がする」
男がそう言うと、彼は待ってろと言い残し、一度姿を消した。
そんなに時が経たない間に、彼は長い柄の作業用の10kgハンマーを肩に担いで現れた。
「俺はガチでやる男だ、本当に良いんだな?」
「あぁ、悔いはない」
そして…。
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