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「ケガはあるか?少年」
凛とした張りのある声が鎧を着た人物から発せられた。どうやら女性のようだ。
「足が………右の足が痛くて……………」
「………少しみせてみろ」
鎧を着た女性は視線を少年の右足に向けると右手の指を空中で踊らせ始めた、まるでそこにキーボードでもあるかのように。
「安心しろ、只の捻挫だ。盛大に痛めてはいるようだが、骨折はしていない」
患部を見ただけで状態を判断した彼女に少年は再度驚かされる。
「全く、その程度の痛みで地に臥すようでは大和魂を持つ、日本男児の名が廃るというものだ」
冗談めかしてそう言い放った目の前の女性に、前時代的な事を言う人だ・・・・・・。少年は率直にそう思った。
「MXー1よりコマンドポスト、ポイントE5249に負傷者を避難させた。医療班を寄越してくれ」
指揮所に通信を入れ、少年を回収させる算段を整えた彼女は少年に向き直り、頭を覆うヘルメットのような装甲から伸びた、目から鼻の辺りまでを隠していたスモークグレーのバイザーを上げる。
露わになったその顔は端正で、西洋人特有のものだった。瞳は真紅で、隙間から垂れる髪もまた目の醒めるような紅色をしている。
「君の親御さんは……あの町か…………………?」
「……………はい、でも、もう………………」
彼の言葉は、その先に続かなかった。
「……………そうか…………………………少年」
一度、言葉を切り、続ける。
「君は、生きろ。両親の分まで………とは言わない、君は君の生きるべき道を進め。」
「……………っ、でも、どうしたら………!」
「案ずるな、今は見えなくても、長い道のりの中できっと見つかる。そういうものだ」
彼女の抑えた声の中に、何かを感じ取った少年は、まだ迷いのある表情だったが、それ以上何も言わなかった。
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