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「さて………私はそろそろ行かなくてはいけない」
そう言って彼から数歩離れると銀と黒の翼がキラキラと光る粒子を吐き出し始め、唐突に、彼女はふわりと地面から浮かび上がった。
「あのっ……名前、名前を教えてくれませんか!?」
少年が慌てて叫んだが、それに対して彼女は芝居がかった所作でバイザーを下ろしながら応えた。
「名乗る程の者ではない……と言いたい所だが、実際問題守秘義務があるのでな名前は言えない。本来なら、顔も見せられんのだがな」
ならついでに名前を明かしてくれても良いのではと少年は思ったが、それを口に出す間もなく紅目の女性がさらに上昇し
「では、少年………………………達者でな……強くなってみせろ」
と言って飛びさってしまった。
「俺の生きるべき道…………………」
あの女性に言われた言葉を反芻してみるが、それはまるで泡沫の夢のようで、すぐに形をとることなく霧散してしまう。
「あれ………力が…………入んない………?」
急激な安息感と、脱力感にみまわれ少年の意識は暗闇に落ち込んでゆく。
目を閉じる瞬間、脳裏に焼き付いたのは闇夜を縦横に駆ける流星達の乱舞だった。
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