第一章 容疑者確保

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   北方は、不気味な笑みを浮かべて言った。 「ヒ・ヨ・コ」 「わぁ、その呼び方だけは止めてくださいよ」 「実際ヒヨコなんだから、別に構わないじゃねぇか」 「嫌ですよ。酒出さんからだって、本当はそう呼ばれたくないんですから」  酒口は、本当に嫌そうな顔をしている。  酒出 太志。  話題に登ったその男は、千葉県警捜査一課の警部補である。  県警一の検挙率を誇り、若手刑事からはカリスマ視され、伝説の刑事と言われている。  一方、県警本部は違った見方をしている。  命令違反。  服務規程違反。  勤務態度は最悪。  何より、上司を上司とも思わぬ言動を重ね、酷いときには階級など関係なしに命令する。  当然、鼻つまみ者となる。  何かにつけて処分を試みようとするが、それを上回る手柄を挙げるものだから、処分のタイミングを逃したまま今日に至った。  ただ一人、柿崎警視だけは彼を認めているが。  午後六時。  大した事件も発生しないままに、陽が暮れて窓の外には闇が訪れかけていた。
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