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北方は、不気味な笑みを浮かべて言った。
「ヒ・ヨ・コ」
「わぁ、その呼び方だけは止めてくださいよ」
「実際ヒヨコなんだから、別に構わないじゃねぇか」
「嫌ですよ。酒出さんからだって、本当はそう呼ばれたくないんですから」
酒口は、本当に嫌そうな顔をしている。
酒出 太志。
話題に登ったその男は、千葉県警捜査一課の警部補である。
県警一の検挙率を誇り、若手刑事からはカリスマ視され、伝説の刑事と言われている。
一方、県警本部は違った見方をしている。
命令違反。
服務規程違反。
勤務態度は最悪。
何より、上司を上司とも思わぬ言動を重ね、酷いときには階級など関係なしに命令する。
当然、鼻つまみ者となる。
何かにつけて処分を試みようとするが、それを上回る手柄を挙げるものだから、処分のタイミングを逃したまま今日に至った。
ただ一人、柿崎警視だけは彼を認めているが。
午後六時。
大した事件も発生しないままに、陽が暮れて窓の外には闇が訪れかけていた。
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