第一章 容疑者確保

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   今年三十になった明子は、酒出とは不釣り合いな美人である。  酒出は、元々美人に弱い。  そうした事から、二人が結婚したと県警内では噂されるが、そのなれ初めは語られていない。  それでも、彼が愛妻家で子煩悩である事は、県警内でも有名である。  それには、理由があった。 「ねぇ、あなた。捜査一課の刑事が、こんなにのんびりと非番を過ごしていいの?」 「あぁ、非番は非番だ。のんびり過ごすもんさ」 「でも、やっぱりねぇ……」  そう、それが理由なのだ。  捜査一課とは、殺人や暴行など凶悪犯罪に対する部所であり、事件が続けば何日も家を明ける事もざらにある。  ところが酒出は、確実に非番を取る。  実は非番を取る為に、事件を早期解決していると噂が立つほどで、事件の最中には非番を取らない。  だが、非番の最中に事件が発生しても、出ていったりはしないのだ。  だから、上層部に睨まれる。  明子も、志津香の将来の事もあり、その辺りを心配しているのだ。  ただ、滅多にそれを口にしない。
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