第一章 容疑者確保

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   正確に言えば、解決などしていないのだから、酒出の出番がある筈である。  しかし、そうした報せが届いたとして、彼が動き出す事は無かった。  実際、その直後に解決したから。  電話なりメールなりの報告を受ければ、その段階で自分が出るべきか判断ができる。そして、これまでは出る必要が無かった。  今回も、そのつもりだった。 「しかし、な……」  何かが引っ掛かり、素直に自分が不必要だと言えない何かがあった。  事件は、転落事故と思われていた。  生命保険会社の営業担当社員の女性が、勤務地のビルの階段から転落して死亡した。  だが、事故では無い。  階段の踊り場を撮影している防犯カメラが、被害者女性の殺害現場を捉えていた。  つまり、殺人。  殺害の様子が、防犯カメラの映像に残されていた為、程なくして重要参考人の身柄が拘束された。  普通ならば、事件はこれで終了となる。  それは、酒出も同じ印象。 「だが、どうにも引っ掛かるんだよな……」  酒出は、頭を悩ませていた。
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