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社内の人間や、このビルの関係者で真美を知る者は、この時期に彼女がここで休憩する事は周知の事実。
姿が見えなければ、ここにいる。
それは、真美自身が触れ回っているのだ。
生保レディの後輩などは、それを利用し個人的に仕事の相談に来たりもする。
「今日は、誰も来ないかな」
真美は、階段の手すりに寄りかかる。
尻だけでなく、寄りかかった部分からも冷気が伝わってくる。それでも、真美の体を冷やしきるまでにはいかない。
その時、上の階から足音が響く。
コンクリートむき出しの空間で、すべてが金属の階段は必要以上に足音が鳴る。それがハイヒールなら、数階は上下でも耳に届く。
性別だけは、音だけで判断できそうだ。
足音の主は、女。
ハイヒールでは無いだろうが。
真美はぼんやりと頭の中で判断し、通行の邪魔にならないよう立ち上がる。
足音は、すぐ上の階まで迫ってきている。
「あらっ、貴女は……」
そう言った真美の体は、次の瞬間に階下へと飛ばされた。
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