期待と懸念

2/20
539人が本棚に入れています
本棚に追加
/265ページ
薄暗がりの中で、甘美に響く彼女の声。 それがどんなに、俺の欲望を掻き立てるものか。 彼女は知らない。 知らないでいい。 俺はただただ余裕ぶって、その肌に、髪に、唇に、優しく触れていくだけ。 擦り寄って、抱きしめて、彼女の耳に舌を這わせて、甘い言葉を直接吹き込むだけ。 つまりは、要らない物なのだ。 互いに甘ったれたこの関係において、俺の持つこの感情は。 捨て去られるべき物なのだ。 “やさしく” 荒い吐息と絡み合った言葉。 彼女が唯一俺に求める、情事の際のリクエスト。 自分の名と共に甘美な声で囁かれるそれを耳にしてしまえば、男が応えないわけにはいかない。 ――けれど、そうは言っても。 ただの性欲と、好きな女を求める欲は、あまりにも違う。 叫ばせたい。 抵抗するほどの刺激を加えて、悲鳴のような喘ぎ声を上げさせてやりたい。 屈服させたい。 目茶苦茶にして、馬鹿みたいに俺を欲する事しかできなくさせてやりたい。 胸に篭って常に彼女に向けられている、獣のように狂暴な感情。 ――末端でも見せてしまえばきっと全てを崩してしまう、情欲。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!