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薄暗がりの中で、甘美に響く彼女の声。
それがどんなに、俺の欲望を掻き立てるものか。
彼女は知らない。
知らないでいい。
俺はただただ余裕ぶって、その肌に、髪に、唇に、優しく触れていくだけ。
擦り寄って、抱きしめて、彼女の耳に舌を這わせて、甘い言葉を直接吹き込むだけ。
つまりは、要らない物なのだ。
互いに甘ったれたこの関係において、俺の持つこの感情は。
捨て去られるべき物なのだ。
“やさしく”
荒い吐息と絡み合った言葉。
彼女が唯一俺に求める、情事の際のリクエスト。
自分の名と共に甘美な声で囁かれるそれを耳にしてしまえば、男が応えないわけにはいかない。
――けれど、そうは言っても。
ただの性欲と、好きな女を求める欲は、あまりにも違う。
叫ばせたい。
抵抗するほどの刺激を加えて、悲鳴のような喘ぎ声を上げさせてやりたい。
屈服させたい。
目茶苦茶にして、馬鹿みたいに俺を欲する事しかできなくさせてやりたい。
胸に篭って常に彼女に向けられている、獣のように狂暴な感情。
――末端でも見せてしまえばきっと全てを崩してしまう、情欲。
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