期待と懸念Ⅱ

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『お前、あんま笑わねーのな』 千晶は滅多に笑わない女だ。 それが始め、俺は無性に気に食わなかった。 何となく距離をとられている気分になったのだ。 二度目か三度目あたりの“事後”の後の、他愛ない会話の最中。 ついに我慢出来ずにそれとなく不満を口にした。 同じベッドの中で少し驚いたように俺を見る千晶の顔は、それでもなお口を一文字に引き結んでいた。 『それは私に対するクレームと捉えていいのかしら』 クレームだ? 業者じゃあるまいし。 『あー、まーそんなカンジ』 シラけた視線を放つ俺を知ってか知らずか、千晶の顔は変わらず真顔。 『どうして?』 『は?』 『嬉しくも楽しくも可笑しくもないのに、どうして笑わなければいけないの?』 ――目を逸らせないほど真っ直ぐに俺を見つめる、真面目な瞳。 それを見て初めて、俺はやっと悟った。 そして、絶句した。 彼女は俺が今まで関わってきた女とは、それこそ根本からまるで違うのだ。 “愛想”、“好意”、それらに対する観念が。
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