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カンに障るだけの万矢になど構ってはおられない。
優太はどうしても3rdステージをクリアしたい。こっちの方が重要だ。
今夜また、優太は履き慣れたシューズでぴかぴかの床を踏み締めていた。
燃えるような目でレーンの先を睨む。
ゲームだ何だと割り切るわりには、優太の心の内はかなり本気であった。
いつの間にか本気にさせられたのだ。それだけ優太は素直で、努力を惜しまない人間なのだ。
優太自身はそれを「子供っぽいダメな僕」の一言で片付け、魅力だとは思っていない。
「ready?」
ショットガンを構え、猛然と吠える。
「勿論だよ!」
飛び出すゾンビとぶつかり合う様にショットガンから弾が飛ぶ。
優太の気合いが乗り移ったかのように激しく火を噴き、次々と高得点を打ち出した。
「VERYGOOD!!VERYGOOD!!VERYGOOD!!」
アナウンスも興奮しきりである。
優太は決して奢る事なく唇を一文字に結び、食らいついた。
一時の喜びなんて欲しくない。欲しいのは次のステージへの切符だけだ。
しかしやはり、例の苦境が待っていた。
弾を込めたいのにゾンビが途切れないもどかしさ。ああ───これでは昨日や一昨日の二の舞になる。
「小森くん!」
誰かが遠くから呼んだ。声を認識する前に優太の視線はその人物を捉えていた。
──松田万矢。
マシンガンを構え、万矢が撃った。優太の目の前にいたゾンビが打ち砕かれる。
撃ちながら万矢が走り寄ってくる。
「手伝う」
言って、弾を優太の手に押し付けた。
リロードしなければいけないのはわかっていても、優太はしばらく慣れた様子でゾンビと向き合う万矢の横顔を、信じられないという顔で眺めていた。
戦いは終わった。
数日かけてもクリア出来なかった3rdステージが、あっさりとクリア出来てしまった。
喜び舞う雰囲気になかった。
優太は放心状態でへたり込んでいる。
万矢は、レーンの上をぶらぶらと行ったり来たりしていた。
「松田くん…どうして?」
小さな呟きに、万矢は「ん?」と俯けていた顔を上げた。
「どうしてここに…いるの?」
聞きながら、答えは一つしかないなと思った。
万矢の答えは優太の予想通りだった。
「俺もクリア出来なくて苦労してたんだ」
不思議だ。万矢もほぼ同じ時期から同じ夢を見ていたのだ。
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