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暗器が執拗にシオを狙ってくる。
催眠術で大半を穏便に追い払ったものの、一人手強いエターが混ざっていてシオは押されていた。
もし足が健康なら軽やかに動けるのに、と思う。
だが、無い物を欲したところで戦況はよくならない。
無い物をいかに他の部分で補うかが重要なのだ。
シオは鷹に姿を変えて足の負担を軽減した。
服を目隠しにしてくちばしを突き出し、獲物の喉笛を狙う。
だが通り過ぎたところに喉笛はなく、滑らかに動く猫の爪にシオの翼が薙ぎ払われていた。
バシッ!
敵に腹を見せる形でシオは地面に打ちつけられた。
そこに猫の牙が襲いかかってくる。
冷やっとした瞬間、猫より大きな体躯の獣が体当たりで猫を突き飛ばしてくれた。
「ふぎゃっ」
押し潰されたような声を発して猫が吹っ飛んだ先に、もう一匹獣がいる。
「ガルルルゥ」
獣は前脚で猫の尾を踏みつけ、鼻先と牙を近づけて唸り声を浴びせた。
猫が降参の鳴き声を発すると、獣は猫の尾を解放した。
愉快なくらい慌てて逃げていく猫の尻が見えて、シオはいい気味だと思った。
獣の片割れが鷹のシオを咥えれば、もう一匹はシオの服を咥えてビール工房のドアを前足で叩く。
灯りを手に、内側からそろそろとドアを開いたのはヤンだった。
「うわっ。なんだこいつら」
ドアが閉められそうになる。
獣は器用にドアの隙間から中に滑り込んだ。
「お、狼じゃん……」
ヤンが何か武器になる物を探しているようだ。
暗闇の中、狼の口に咥えられたままのシオは、頭だけを一時人間のそれに戻した。
「大丈夫だよヤン。この狼は君を襲ったりしないからさ」
「シオさん、一体どこにいるんだよ?」
姿が見えないシオの言葉では恐怖が拭いきれないのだろう。
ヤンは早口でしゃべりながら、灯りをシオに向けてきた。
眩しい。
「そういや、ザイオン皇帝陛下は鷹のエターだって……あぁ! この鳥シオさん? ちょっと、狼に食べられてんじゃん」
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