W-WOLF 第三十八話 宮廷恋歌

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 シオは人間に戻って服を着た。  シオを咥えていた金色の狼もだ。  銀色の狼だけは、服を持って勝手口に出ていった。  戻ってきた時は、勝ち気な目をした人間の美女になっている。  ヤンはカウンターに灯りの皿を置いて油を足した。 「頭パニックだぜ。信じらんねぇことばっかじゃん」  首を傾げて唸るヤンに、シオは色の薄い自分の頭をむしゃむしゃ掻きながら謝った。 「言うのが遅くなったけど、俺、ここでこの二人と待ち合わせしてたんだ。巻き込んでごめんよ」 「別にいいぜ。ミルちゃんにも久し振りに会えたし、噂の彼女も見られたしな。だけど伝説の狼だったとは、いやはや恐れ入りました」  四人がカウンターに座ると、もう満席になる。 「シオ、このまま話を進めてもいいのかな?」  ヤンをちらりと見て、ミルはシオの耳に手を当てて耳打ちしてきた。  言いたいことはよく分かる。 「いたらまずいってのか? ミルちゃん」 「あ、いや」  仲間外れの相談になると人間でも地獄耳になるものらしい。  ヤンまでこちらに顔を寄せてくる。 「よしてくれよ。むさ苦しい」  紅一点のサラが、カウンターの端で呆れたように頬杖をついている。  シオが笑いかけると、ふぃっとあちらを向いてしまった。  ミル一筋は変わってないらしい。 「まあまあ、いいじゃないか」  シオはヤンとミルの頭を同時に軽く叩いた。  仲介は成功したようで、ミルは背中に張りつく大きな鞄を外して中をまさぐった。  シオがファーでよく飲んでいた銘柄の缶ビールを何本もカウンターに置く。 「はい、お土産」  シオが缶に触れると、二本だけカキンと冷えている。 「冷蔵庫に入ってたみたいだね」 「二本だけ保冷ケースに入れてきたんだよ。でないと、シオの場合は飲み過ぎるからね。  保冷ケースは太陽光エネルギーで動くからここでも使えるよ。はい、これ」  ミルには完全に性格を把握されている。  まるで子供を心配する母親みたいだとシオは思った。 「小さな冷蔵庫ってとこだね。死ぬほど嬉しいよ、ミル」  シオはミルにがばっと抱きついた。  保冷ケースと缶ビールが宝物のように輝いて見える。
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