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「ヤン、本場の味だよ」
シオは会話に全くついてきていないヤンに缶ビールを手渡した。
「変な入れ物」
指先の爪で缶をつついているヤン。
その手から再び缶ビールをひょいと摘まみ上げ、シオは「貸して。こうするんだ」と缶の上についている摘みを引いた。
ミルとサラはあまり酒を飲まない性質だ。
ビールを遠慮したので、シオは従業員用のカップ二つに缶ビールをなみなみと注いだ。
「はい、ポテトチップス」
素晴らしいことに、ミルの鞄からはおつまみまで出てくる。
礼を言って、シオはファーのポテトチップスをヤンと一緒に摘んだ。
だが、至れりつくせりで巻かれるシオではない。
「場所を指定したのは俺だけど、宮廷の外に俺を呼び出したのは君達だ。大事な用事があるんじゃないのかい?」
本題を促すと、ミルはまたヤンをちらりと見た。
「まぁいいか」と表情で語る顔が、油の芯に昇る灯りの炎に頼りなく照らされる。
それからミルは、シオの予想だにしない行動に出た。
椅子に座ったまま、シオの右太ももを、なんとおもむろに押してきたのだ!
「!」
絶句するほどの痛みがシオの神経を逆撫でした。
ミルの手をとっさに掴んで太ももから引き剥がし、平常心の仮面を被りながら笑う。
「何だい、いきなり」
「やっぱり治ってない。ずっと痛いんでしょ? 怪我じゃないんでしょ?」
ズバリと指摘されて、シオの胸がしゃっくりをした。
「先代皇帝と同じ不治の病なんだってね」
このことは、エターの医者とシオの間の秘密だったはずだ。
「誰かに訊いたのかい?」
シオは医者の猿顔を思い浮かべて憤慨しながら、ミルに向かって声を荒げた。
「訊いたんじゃない。この前宮廷から出る直前、誰かの願いごとがたまたま聞こえてきただけだよ。
シオが『ファーの医療の恩恵を再び授かることができますように』って。
姿が見えなかったから、誰かは分からないけどさ」
白々しい。
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