W-WOLF 第三十八話 宮廷恋歌

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「俺の成すべきことは、国を滅ぼして健康に長生きすることじゃない。  全面戦争を食い止めて国内の改革を進め、未来への道を模索すること。それに有能な後継者を育成することなんだ」  シオの網膜で、腹の子を慈しむアニィの笑みが満面に広がって粉々に砕けた。  長生きする理由はもはやない。  幸せいっぱいのミルやサラには理解できないだろう。  沈黙が流れる。 「前と感じが変わったわね、シオ」  サラがぽつりとシオに評価を下した。 「当然だよ。今は俺の、俺自身の意思で動いているからね」  母親や先代皇帝の理想に縛りつけられていた頃とは違うのだ。 「今の方がいい顔してるわよ」 「……それはどうも」  シオはくすりと笑って椅子に座った。  座り込んだという方が正確な表現だろう。 「なぁ、全然分かんねぇよシオさん!」  ミルは黙ってシオを食い入るように見ていたが、約一名、涙目で喚いた者がいる。  ビール工房を任せている幼なじみのヤンだった。 「格好つけてんじゃねぇよ。どんな病気か知らねぇけど、死んじまったら終わりだろ。  シオさん一人の身体じゃねぇんだ。周りの奴の気持ちも考えろって。  その、できることは協力するからさ」  細長い割に筋肉の盛り上がった腕で、ヤンは雑に目を擦った。 「ったく。どんだけ時間かかるとか、どんな治療するとか、人の話も聞かねぇうちに決め込むのはおかしいぜ」  ……人の話を聞かないで決め込む…。  それは、国のトップを走る者としては致命的な欠陥だ。  シオは目から鱗が落ちた気分だった。 ーーーーーーーーーーーーーーー
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