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「駄目だよ。皇帝の替え玉なんて危険すぎる。皇帝は暗殺者に狙われているし、民間人を巻き込むわけにはいかない」
「いや、やるぜ。できることがあるならやらせてくれよ」
ヤンはすぐ明るい表情になって、シオの肩に力のこもった手を乗せてきた。
だがシオは納得しなかった。
「もしヤンに何かあったら、俺はおじさんとおばさんに顔向けできない」
首を横に振り続けていると、ヤンの両手がぬっとシオの頭とあごに伸びてくる。
「頷けよなぁ、うるぁ」
「やめてくれよ」
無理矢理縦に首を動かされる。
昔は喧嘩で、今は重い酒樽を運んで鍛えるヤンの腕力は、結構馬鹿にならない。
シオの首の骨がゴキッと鳴った。
「おいっ」
「あ、ごめんだぜ」
ヤンの腕がぱっとシオの頭部から離れる。
シオは、違和感の残る首を自分でゴキゴキ鳴らして修正した。
「戯れるのも命がけね」
ミルの隣で滑らかな銀髪を耳に掻き上げながら、サラが目を細めて苦笑した。
「私がヤンの護衛につくわ。これで文句ないでしょ? あなた達」
ファーのパルスレーザー銃を腰のホルダーから引き抜いてくるりと回し、すとんとホルダーに落とすサラ。
風舞いと異名を取るこの銀狼は、敵に回せば脅威だが、味方にすればエターの精鋭に匹敵する頼もしい戦力だ。
文句なんかつけたら天罰が下る。
「そこまでしてくれるのかい……分かったよ。君達の好意に甘えよう」
礼を述べると、サラの方は「勘違いしないで」と高圧的な態度で腕組みした。
「私はミルの手助けをしたいだけ。正直いい気味なのよね。私達の苦しみを半分の半分でも味わいなさい」
本気でそう思っているのか照れ隠しで蔑んでくるのかは謎だが、いずれにせよ今のシオには痛恨の響きだ。
かろうじて笑顔を保ちつつも、悶絶している己の感情が、ぐっと握った拳に集約していく。
「私だけじゃない。ラヴィアル王子もアニィも、それに弟のセプだって……あなたに関わった大勢の人が人生を狂わされた。
例えどんな理由があっても、その罪が帳消しになることはないわ」
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