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「ちょっと、やめてよサラ」
「そうだ。シオさんを侮辱すんじゃねぇ」
娘みたいに小柄なミルと細くて高いヤンの背中が、シオの視界からサラの姿を消してしまった。
大きさも形も違うが、二つの背中の壁は分厚くて暖かい。
不思議と拳の震えが引いていく。
だけど冷静に判断する限り、サラの主張は何も間違ったところがないのだった。
「サラちゃんは正しい」
二つの背中の真ん中に割って入り、シオは不服そうなサラの正面に立った。
その言い分を認めると、サラのつり上がったまぶたがぴくりと反応した。
「事実、俺は数多(あまた)の人間を利用し、彼らの人生を奪ってきた。
そのくせ、自分の大切な人達は絶対に護りたいし、全面戦争で帝都が焼かれるのはまっぴらごめんだと思っている。
自分勝手は認めるよ」
心を決めるきっかけをくれたヤンを目の端で確認しながら、シオはサラに向かってにっこりしてみせた。
いつもなら、ここで張り手か罵声が飛んでくる。
しかし目前のサラは表情を和らげ、意外にも穏やかにシオを見上げてきただけだった。
「それを聞いたら安心して協力できるわ。とっとと病気を治すのよ、シオ」
「ありがとうサラちゃん。ヤンを頼むよ。大事な幼なじみなんだ」
サラの手をきゅうと両手で握り締めて、感激の意を示す。
……と。
「きゃああっ」
過剰反応したサラの回し蹴りが、やっぱりシオにぶっ飛んできた。
「ちょっ、待ちなよ。手を少し強く握っただけじゃないか」
「どこに強く握る必要があるのよっ」
ひょいと躱した直後、複雑そうに目で訴えてくるミルと視線が合う。
サラを襲った前科があるだけに、シオがサラに手出ししないかヤキモキしているのだろう。
「心配性だなぁ」
シオはミルの頭を掌でくしゃっと掻き混ぜながら、サラの拳を軽く流した。
「観念なさい!」
そこでサラの膝がシオの腹に埋まりかけた。
「うわっ。勘弁してくれよ」
間一髪で身を捻る。
「またシオさんの悪い癖が出たぜ」
ヤンはさっきのように助けてくれる気配もなく、肩で笑っているだけだった。
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