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【十三】
ファーの新天地アゾレス大陸。
穏やかな蒼い海に浮かぶ、大陸という名の孤島は平和で美しい。
開発されているのは大陸の一部分だけだ。
ビルやマンションの群れがひしめき合い、リニアモーターカーや二輪車、四輪車等の走る街が「中央」と呼ばれるのは、ファーが崩れかけたドームにあった頃と変わらない。
中央病院に入院する前に、シオはファーの長やAE研究グループの博士にあいさつをする機会があった。
不正しまくった自覚はあるのだが、意外にも「感謝状」と書かれた厚い紙を渡されて歓迎の意を表され、握手まで求められた。
あっけに取られながらも、厚かましく「この次は、一個人ではなく国を代表する者としてお会いしたいです」と未来につなげることを忘れない。
ミルのおかげだ。
以前、シオの気ままでファーを飛び出した時、ミルが残らなければファーとのつながりは断絶されていた。
ファーは伝説の存在に立ち戻っていただろう。
だが呑気に寛いでもいられない。
ママタ帝国には、皇帝であるシオの替え玉としてヤンを、その護衛として銀狼サラティアナを置いてきている。
連絡が取れるとはいえ通信条件は限られているし、いざという時も駆けつけることはできない。
やはり心配と不安は拭えなかった。
しかも、だ。
再検査や精密検査の繰り返しで既に何日も経過しているのに、医者の口から治療方法の話が出てくる気配は一向にない。
病室備えつけのモニタはテレビになったり通信機器になったりと多機能だが、シオの検査結果も容赦なく映し出す。
告知された病気はエターの医者の見立てと同じだった。
異なったのは余命だ。
放置すれば確実に命はないが、即刻治療にかかれば完治の望みがあるという。
問題は治療にかかる時間の方だった。
まだはっきりしないが、帝国の危機を救わなければならない今のシオにとっては、かなり心苦しい長期滞在となる。
ロイ隊長と皇帝補佐のグラント皇子にも協力を仰いではいるが、いつまでも周囲をごまかせるものではない。
その晩シオは、消灯された病室でヤンからの通信を受け取っていた。
向こうは今、朝だ。
「宣戦布告の知らせが聖狼連合軍から届いたんだ」
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