W-WOLF 第三十八話 宮廷恋歌

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 シオはあの手この手とママタ帝国軍に策を授けたが、限界だと感じる時は遂にやって来た。 「申しわけございません。力至らず、ヤリキリ半島が聖狼連合軍に制圧されました。  今後、ここを拠点として領土奪取に力を入れてくると思われます」  凶報を重く告げるロイ隊長が病室のモニタに映る。  その後ろから、おろおろと落ち着かない様子のヤンが顔を覗かせていた。  サラはいないようだ。 「いや、君達の力が足りないわけじゃない。聖狼連合軍が輸入した砲弾と銃器、兵法が桁違いなだけだ。兵士の数もね。元より分が悪すぎるんだよ」  かといって、帝国には聖狼連合軍のような武器輸入のつてはない。  銀狼サラティアナが持つファーのパルスレーザー銃は、一丁でも戦況を覆す威力を秘める。  だが、ヤンの護衛をする彼女に戦場での使用を促すのは現実的でない。 「前線に出てもらえないか、銀狼に打診しますか?」  モニタの向こうで、ロイ隊長はそんな提案をしてくる。  シオと同じことを考えたようだ。 「いや、サラちゃんはヤンの護衛に徹する。サラちゃんが宮廷にいるだけでも奇跡だと思ってくれよ」  サラの実力はシオも熟知しているが、残念ながらママタ帝国軍の一員として戦場を走らせることができる戦力ではない。  ロイ隊長の案は許さなかった。  だが、現在の戦況を打破する現実的かつ効果的な方法がないでもない。  金狼・銀狼の使いであり、絶対的な力を持つと信じられているドラゴンの存在だ。  人々に広く認知され畏怖されるドラゴンは、佇むだけで敵を黙らせる素晴らしい戦争抑制剤となる。  聖狼連合軍に加盟した反乱分子、帝国制圧軍。  彼らに奪われたブラック・ドラゴンを再び手中に収めれば、戦での優位を取り戻すことができる。  兵力の浪費も抑えられる。  しかしブラック・ドラゴンは強い。まして反乱分子には催眠術師アニィがいる。  取り戻すにしても、常人では歯が立たないだろう。  却って犠牲者を増やすだけだ。  ここは、ブラック・ドラゴンの機能に精通し、尚かつ催眠術師アニィに対抗できるシオが出向く必要がある。
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