W-WOLF 第三十八話 宮廷恋歌

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 ……帝国を留守にしたのはやはり間違いだったか。  ロイ隊長との通信を終えると、シオは若干いらだちながら、即刻ミルの携帯端末に通信して病院に呼び出した。 「すぐ帰れるよう手配してくれよ。向こうが落ち着いたら、また連れてきてくれればいい」  ところが病室に入ってくるなり、ミルはシオに「馬鹿!」と歯向かってきたのだった。 「シオの病気は一刻を争うって言ったでしょ? そんな弱った身体で帰ってどうするんだよ。格好の餌食じゃないか」  シオは病室のベッドから跳ね起きた。  ファーの私服をまとうミルに向き直る。  カジュアルなシャツにジーンズという飾り気のない格好だが、キャンキャン喚く女にしか見えない。 「ミル」  靴を履いてわざわざ床に立ち、身長の低いミルを見下ろしてにっこり笑ってみせるのは、シオが精神的優位に立つためだ。 「一刻を争う病気の割には、検査だけでも随分かかってるよね」 「病状を正確に把握するためだから仕方ないよ。何のために映像記録閲覧許可をもらって個室にしたわけ?  自称頭脳労働派なんだから、肉体労働派に通信システムで指示を出せばいいでしょ?」 「それはやってる。だけど、物理的に俺が出向かなければどうしようもないんだよ」  ブラック・ドラゴンが帝国の手中に戻る。  それが不服に違いないミルやサラには、行動を起こすまで絶対に秘密だ。  ふっと病室の電灯が消えた。  消灯の時間になったのだ。  闇の中で非常灯だけが薄く光っている。  くらり。  急に跳ね起きたせいか、患部の痛みとめまいでシオの足元はぐらついた。 「シオ!」  気がつけば、ミルがしっかり脇の下から抱えてシオの上体を受け止めている。  そのままシオはミルの背中に腕を回して、しがみつくようにもたれかかった。 「頼む、帰してくれよ」  今度は耳元で甘えてみる。 「もし帝都が焼かれたら、と思うと夜も眠れない」  あからさまに大きな溜め息がミルの口から漏れた。  絶対わざとだ。  少し動いただけなのに、身体全体が重くてしんどい。  息苦しくなって、とうとうシオは大人しくベッドにもぐった。  ミルが布団をぴんと伸ばしてかけてくれる。
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