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……帝国を留守にしたのはやはり間違いだったか。
ロイ隊長との通信を終えると、シオは若干いらだちながら、即刻ミルの携帯端末に通信して病院に呼び出した。
「すぐ帰れるよう手配してくれよ。向こうが落ち着いたら、また連れてきてくれればいい」
ところが病室に入ってくるなり、ミルはシオに「馬鹿!」と歯向かってきたのだった。
「シオの病気は一刻を争うって言ったでしょ? そんな弱った身体で帰ってどうするんだよ。格好の餌食じゃないか」
シオは病室のベッドから跳ね起きた。
ファーの私服をまとうミルに向き直る。
カジュアルなシャツにジーンズという飾り気のない格好だが、キャンキャン喚く女にしか見えない。
「ミル」
靴を履いてわざわざ床に立ち、身長の低いミルを見下ろしてにっこり笑ってみせるのは、シオが精神的優位に立つためだ。
「一刻を争う病気の割には、検査だけでも随分かかってるよね」
「病状を正確に把握するためだから仕方ないよ。何のために映像記録閲覧許可をもらって個室にしたわけ?
自称頭脳労働派なんだから、肉体労働派に通信システムで指示を出せばいいでしょ?」
「それはやってる。だけど、物理的に俺が出向かなければどうしようもないんだよ」
ブラック・ドラゴンが帝国の手中に戻る。
それが不服に違いないミルやサラには、行動を起こすまで絶対に秘密だ。
ふっと病室の電灯が消えた。
消灯の時間になったのだ。
闇の中で非常灯だけが薄く光っている。
くらり。
急に跳ね起きたせいか、患部の痛みとめまいでシオの足元はぐらついた。
「シオ!」
気がつけば、ミルがしっかり脇の下から抱えてシオの上体を受け止めている。
そのままシオはミルの背中に腕を回して、しがみつくようにもたれかかった。
「頼む、帰してくれよ」
今度は耳元で甘えてみる。
「もし帝都が焼かれたら、と思うと夜も眠れない」
あからさまに大きな溜め息がミルの口から漏れた。
絶対わざとだ。
少し動いただけなのに、身体全体が重くてしんどい。
息苦しくなって、とうとうシオは大人しくベッドにもぐった。
ミルが布団をぴんと伸ばしてかけてくれる。
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