W-WOLF 第三十八話 宮廷恋歌

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「これじゃ俺、まるで病人みたいじゃないか」  身体が思い通りに動いてくれない歯痒さに、ついぼやいてしまう。 「どこからどう見ても重病人だよ。自覚してよね」  またミルに溜め息をつかれてしまった。 「……僕だって」  個室の窓際に寄って、ミルがカーテンの端を捲りながら呟いた。 「本当は今すぐサラやラヴァの元に駆けつけたい。戦争だってやめさせたい」  室内が暗いおかげで、小柄なミルの背中越しに窓ガラスの外の夜景が綺麗に見える。  街の明かりが色とりどりに瞬く様はとても美しかった。 「じゃあ、なんで君はここにいるんだい?」  ミルは室内を振り向いた。  ベッドに横たわるシオにほほ笑みかけてくる笑顔が、非常灯の薄い光の中でぼんやり見える。 「同じくらいシオも大事だからさ。今、一番危なっかしくて目が離せないのはシオだよ」  口から生まれたようなシオも、そんなことを言われてしまっては黙るしかない。 「僕はサラやラヴァを信じる」  ベッド上のシオは唇を結んで頭の下に腕を敷き、ミルの穏やかだが力のこもった言葉を寝そべったまま聞いた。 「よく考えてほしいんだ、シオ」  ミルは再びシオに背中を見せた。  ガラス窓の向こうの夜景をまた眺めている。 「反乱分子と宮廷の意見主張は食い違っているのかもしれない。  けど、彼らのほとんどは帝国の国民なんだ。主張していることに耳を傾けて、双方共に手を取り合って歩み寄る努力はできないのかな?  僕は、シオと統括が同じ方角を向いてるように感じるよ」  そんなことはない、とシオは瞬間的に反発した。  理想の方向性は全然違う。 「反乱分子の欲張りな要求に耳を傾けたら、肥沃な領土は全く帝国に残らない。第一、武力行使に屈することになる。  しかも今や聖狼連合軍と合体して巨大化、馬鹿力で帝国領土を奪取しようとしている。  統括との溝は海溝より深いよ」  シオは吐く息と共に即答した。
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